記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』 by 押井守 & 『愛のブーメラン』by 松谷祐子

「カメに乗って行ったのが太郎だけでなく
村人全員だったらどうだったでしょうね・・・
全員が竜宮城へ行って、そして、そろって村へ帰ってきたとしたら、
それでもやっぱり数百年の歳月がたってたコトになるんでしょうかね・・
村人が誰一人気づかなかったとしても・・・・
なまじ客観的な時間やら空間やら考えるさかい、
ややこしいコトになるんちゃいまっか?
帯に短し、待つ身に長し、いいますやろ。
時間なんちゅうもんは、人間の意識の産物なんや思たらええのんやがな。
世界中に人間が一人もおらなんだら時計やカレンダーに何の意味があるちゅうねん!
過去から未来へキチンと行儀よう流れてる時間なんて
始めからないのんちゃいまっかいな?」


学園祭を翌日に控え、ドタバタが繰り広げられている友引高校。
連日の泊り込みで疲弊しきった温泉マークは、
時間の感覚がおかしくなっていることに気づき、さくら先生に相談をもちかける。
もしかしたらずっとずっと以前から”学園祭前日”という同じ一日を
延々と繰り返しているのではないか。
まるで、亀を助けた浦島太郎のように、
時間のエアポケットにはまってしまったのではないか。
それも自分一人だけではなく、友引町全体が……
そして突如世界は荒廃する。いつものメンバーだけを残して。
果たして時間とは何か、記憶とは何か。
のちに世界を虜にしてしまうことになる
押井独特の哲学・思想の片鱗が存分にあふれた恐るべき超一級作品。



最近BD版を購入して、まるでトラウマかの如く何度も繰り返し見てしまっている。
言わずと知れた80年代コミックスの金字塔、
高橋留美子先生の『うる星やつら』の劇場版第2弾。
監督を務めるは、TVシリーズからチーフディレクターを務め、
今やジャパニメーションのレジェンドとして君臨する押井守
この作品だけ、いわゆるドタバタ不条理のラブコメ王道の
『うる奴』路線とは一線を画し、
のちの攻殻シリーズにもつながっていく、
監督自身の思想・嗜好が全面に押し出された押井ワールド全開の作品。
そのせいで、原作者からは
「(『ビューティフル・ドリーマー』は)押井さんの『うる星やつら』です」と一蹴され、
自分の作品ではないと完全否定されるにいたったほど。
おまけに、この作品をもって押井さんはTV版から自ら降板するというオマケつき。
しかしそれだけ腹をくくっただけのことはあり、
公開から30年たった今でも全く色あせることがない名作である。


とにかく演出が素晴らしい。
”学園祭前日”というカラクリに気づいた温泉マークが
さくら先生と喫茶店で会話をするシーンで
グラスに注がれる水によってぐにゃりと変形する温泉マークの顔。
それに対峙するさくら先生の正面のカットは、まるで草薙素子の表情と重なる。
夜食を買いに人気のない夜道に車を走らせるあたると面堂。
ビルの窓ガラスに映る顔が大きくなったり小さくなったり。
そうして突如現れるちんどん屋。あそこの静かなるシーンは鳥肌もの。
そして、冒頭に記したセリフのシーン。
さくら先生が友引高校へ戻るために乗り込んだタクシーでのやりとり。
夜の闇に浮かび上がる街灯が一定の間隔で過ぎ去っていく、
ただそれだけのシーンがなぜにこれほど不気味で、強く残るのか。
しのぶが迷い込んだ路地に鳴り響く幻想的な風鈴の音色。
そしてそれを見つめる白シャツの男。
すべてが見事。


批評の中には、これは別に『うる星やつら』でやる必要などないのじゃないか
という意見もあるようだが、
自分としてはこれは『うる星』だからこそ
これほど完璧に成立する話じゃないかと考える。
その理由は2つ。
まず1つめは何と言っても、
この無茶で突飛な世界観をわざわざ説明する必要がないということ。
『うる奴』だから、何が起こっても不思議ではないし、
何か起こってこその『うる奴』だと、
作る側も観る側もはじめっからそういう下地が出来上がっている。
これが全く知らないキャラクターが登場し、全く新しい設定だったとしたら、
まずそのシチュエーションを取り入れるところから作品を見始めないといけない。
そうするとせっかく精巧に組み上げられた肝心のストーリーに
スポットが当たらないことになる。
そういったわざわざな説明をいっぺんに省略することができるというのは
非常に大きいように思う。
そして2つめは大いなるギャップだ。違和感といってもいい。
『うる奴』といえば、アホな連中が毎度毎度お決まりのドタバタを繰り広げていて
非常にコメディー色が強いが、それが一転してシリアルな展開を持ってこられると、
ん?どうした?何があった?と物語に大きく強く引きずり込まれることになる。
そしてそのギャップが大きければ大きいほど、ますます不気味さが増して、
作品の魅力に磨きがかかるのである。
踏み台にされた高橋先生にしてみれば、憤懣やるかたなしという心境はわかるが、
これはもう押井守してやったりである。


それにしても!
声優陣が豪華すぎる!
平野文古川登志夫神谷明千葉茂田中真弓永井一郎
西村知道島津冴子緒方賢一鷲尾真知子藤岡琢也etc
80〜90年代は本当にアニメの黄金期だったなあ。


↓『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』 予告編


この映画のもう一つの主役は何と言ってもエンディング曲の素晴らしさ。
80年代アニメのテーマ曲はどれも名曲ぞろいですが、
その中でも屈指の名曲だと思います。
もう長らくずっとこの曲が頭の中で延々かかってます。こびりついて離れない!
このエンディング自体が実はプロローグにつながって、
世界が無限にループしているという素晴らしい仕掛け。
まさにC・ノーランの『インセプション』の30年の先駆け!
このイマジネーションすごすぎる。


↓『愛はブーメラン』


↓弾き語りしてみました


【愛はブーメラン】
またあなたの気まぐれが動き出した
悲しいわ これっきりね
また あの娘の夢を見ているのでしょう
ため息で So long in my dream


She is an Angel(NO!)She is a Devil
Ah Ah あなたにとっては
甘い罠をかける女(ひと)


あなたの愛はパラダイス
くり返しては消えた
I love you 口唇の中


今 あの娘の細い腰 手を回した
悲しいわ これっきりね
今 想い出永遠に消しましょうか
ため息で So long in my dream


She is an Venus(NO!)She is a Beast
Ah Ah あたしにとっては
愛の夢を破る女(ひと)


あなたの愛はパラダイス
くり返す気もないわ
I love you 口唇かんだ


もしか もしか 愛はもしかして
ほおり投げたブーメラン


She is an Angel(NO!)She is a Devil
Ah Ah あなたにとっては
甘い罠をかける女(ひと)


あなたの愛はパラダイス
くり返す気もないわ
I love you 口唇かんだ


もしか もしか 愛はもしかして
ほおり投げたブーメラン


もしか もしか 愛はもしかして
ほおり投げたブーメラン