記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

酒場探訪記 南方の古参

南方の東のはずれにひっそりと佇む一軒の酒屋がある。
昭和ムード満点の年季の入った建物に掲げられた
「田中萬酒店」の蛍光看板が場違いなほど眩しく大通りを照らしている。
古めかしい引き戸をガラガラと開けると、
もう何年もそこに住み着いているかのような常連さんたちのにぎわい。
店の内装もまた外見を裏切らない猥雑さで、
何層にも上塗りされた歴史が味わい深さを醸し出している。
と、女将さんと目が合い、その視線に促されるように、カウンターの真ん中に立つ。
女将さんは白髪を見事な紫に染め上げ、まさしくナニワの女である。
席へ向かうその隙に、すでに目ざとく
冷蔵庫に赤星が眠っているのを確認しており、さっそう注文を入れる。
目の前のカウンターには大皿がいくつか並んでおり、
炒め物やらポテサラ、酢の物やらが魅惑的に盛り付けられている。
その奥には、深いべっ甲色に満たされたおでん鍋。
今日はいよいよ冬の到来を感じさせる肌寒さであった。
ここはひとつ、暖を取るに限ると、厚揚げと玉子ちょうだい。
赤星で流しながら、常連さんたちの会話をBGMに、
酒場特有のゆったりとした時間を味わう。
うむ、なんともまっとうな角打ち。


↓田中萬酒店


↓常連さんで盛況


↓赤星でおでん