記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

 ★勝手に黒部フェア★ 『高熱隧道』 by 吉村昭 & 『黒部の太陽』 by 熊井啓 

ひさびさに文芸ネタを。勝手に黒部フェアとして2作品紹介します。
といっても当ブログにお越しの方々にはなじみの深いものばかりだと思いますが。
1つは吉村昭著の『高熱隧道』、もう一つは三船&裕次郎タッグの映画『黒部の太陽』です。
なぜ、今更こんなのを紹介するのって?
だって今週末に行くからよん♪
そのための予習復習で再び読み返し、観返してみたが、
やはり史実に勝る物語はなし。すごすぎます。


↓「高熱隧道」

高熱隧道 (新潮文庫)

高熱隧道 (新潮文庫)


人柱。
その言葉がまさしく当てはまる。
現代日本の繁栄も、我々も何気ない生活も、
彼らの地獄の日々と犠牲の上に成り立っている。
本著は、1940年に完成した黒部渓谷第3ダムと、
そこに至るまでに掘られた軌道トンネルの掘削工事の実話を元に書かれた記録小説である。


険しく切り立った山肌に、厳しい自然の脅威が
永らく人間の侵入を拒み続けてきた人跡未踏の秘境・黒部。
逼迫する電力事情に、国家繁栄の至上命題として、この地に水力発電所の建設が言い渡される。
それはまさに人間対自然の壮絶なる戦いの幕開けであった。
現在ほど発達していない戦前の脆弱な技術で、常に死と隣り合わせでの工事、
それはもう無謀を越えて狂気の世界といってもよいほどの地獄絵図。


行く手を阻むドカ雪に、黒部川の濁流。自然はまさに容赦がなかった。
断崖絶壁に切り取られた幅わずかに7,80cm足らずの荷揚げ歩道から足を滑らせる人夫、
毎秒1000mものスピードで、全てのものを谷底へと飲みこむ雪崩が
就寝中の作業員のいるコンクリートの宿舎を対岸の岩肌へ容赦なく叩き付ける。
そして摂氏170度にも達する高熱の地層での作業。
作業用のダイナマイトが自然爆発し、四散する発破人の肉体…
それでも人間は圧倒的な自然の脅威に抗って、
強大な風穴をその横っ腹にぶち開けるのである。


これがフィクションではなく、まぎれもない史実であるということが何よりも衝撃である。
と同時に彼らがまさに命を賭して遺したものが、
現代の生活の礎として立派にその役割を果たしてきたことに対して感銘する。
世界的にも有名な「黒四(くろよん)」に比べて、この「黒三」はあまり知られていないが、
後世まで伝えるべき偉業として、ぜひ読んでいただきたい一冊。


↓「黒部の太陽

黒部の太陽

黒部の太陽


言わずと知れた日本映画の大作。
当時、映画界は5社協定という厳しい縛りがある中、
三船プロダクション石原プロモーションの共同制作で誕生した渾身の一作である。
これまで裕次郎の意向でソフト化されていないため、
半ば幻の名作としてなかなか日の目を浴びてこなかったが、
来年2013年に初DVD化される予定。諸君!しばし待て。


世紀の大工事と謳われた「黒四」ダムの建設。
そのプロジェクトの命運を握ったのが、
信濃扇沢から黒部の御前沢へ抜ける関電トンネルの掘削工事であった。
破砕帯と呼ばれる脆弱な地盤、身を切るような冷たさの地下水の大噴出、
遅々として進まない工事に、増え続ける犠牲、そして迫りくる納期。
これらの難題を男気あふれる堀り屋たちは乗り越えてゆく。
まさしく意地と男のロマン溢れる男たちの闘いの記録。