記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『人生フルーツ』 by 伏原健之監督

風が吹けば、枯葉が落ちる。
枯葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果実が実る。
こつこつ、ゆっくり。
人生、フルーツ。



大学で建築家・丹下健三に師事し、
戦災による住宅不足問題に取り組むために設立された
日本住宅公団のエースとして
数々のニュータウンを設計してきた津端修一さんと、
奥様の英子さんの豊かな暮らしを記録したドキュメンタリー。
自身が計画・設計に携わった
愛知県春日井市高蔵寺ニュータウンの一角に
300坪の土地を購入し、
そこに建築家アントニン・レーモンドの旧宅を模した
木造平屋建ての30畳のワンルームの住宅をこしらえ、
畑と手作りの雑木林を作って40年。
衣食住のすべてを自分たちの手作業で行い、
鳥たちが気ままに遊びにやってくる広いお庭では
ありとあらゆるお花や果物、野菜を育て、収穫し、
自分たちで料理し、食べる。
その料理たちの何ともおいしそうなこと。
自然との会話を絶やさず、季節と寄り添いながら
営まれる夫婦二人三脚の日々。
何事もコツコツ丁寧に、絶やすことなく続けていくこと。
決して荒ぶることなく、穏やかに健やかに。
お金より時間を貯めて生きてゆく。
豊かな土を受け継いで生きてゆく。
そこには自然と笑顔が生まれ、心が通う。
夫婦のあり方や、人生における豊かさとは何か、
改めて気づかされることの多さ。目から鱗
人生、フルーツ。なんて素敵な言葉だろう。



お仕事終わりに、十三の第七藝術劇場にて。
元々は東海テレビのドキュメンタリー番組として制作されたもので、
平成28年度の文化庁芸術祭
テレビ・ドキュメンタリー部門を受賞した作品。
いつもなぜか山遠征の帰りにワイドビューの車窓から見える
高蔵寺の面白い街並みになんとなく興味を惹かれていて、
また建築やニュータウンなどの興味があり
津端さんのこともお名前は知っていましたが、
奥様との日常生活がこれほどまでに豊かで素敵なことに
とても感動しました。


何事もまず自分たちで作ってみる。
家も畑も道具も遊具も料理も全部。それがとても素晴らしい。
そしてお互いがお互いを尊重する。
90歳になっても奥さんのことを
「人生最高のガールフレンド」と言えるなんて本当に素敵。
かといって、終始べったりしているわけじゃなく、
修一さんは毎朝決まってご飯派なのに、奥様はトーストだったり、
ジャガイモ料理大好きな夫さんに対して、
ジャガイモ嫌いの奥様が料理をしたり、
ダイニングテーブルの位置を窓から遠ざけるか近づけるかで
意見が合わなかったり。
無理にどちらかに合わせたり、意見を一致させるのではなく、
それぞれが実に自然体でいることを大切にして共生している、
その感覚というか間合いが
長年連れ添ってきた夫婦だからこそのもの。
見習いたい。
修一さんは残念ながら2015年6月に、
畑仕事を終えてお昼寝に入ったまま
再び目を覚ますことはありませんでした。
でも、奥様がそのあとをしっかり引き継いで、
想いを後世へと伝え続けていて、
それが色々なところで芽吹いて、
新たな果実が生まれていくといいなあ。