記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

梅田哲也/hyslom 『入船』出版記念クルーズ 第2便(天満橋~東横堀川~道頓堀川~大正)

 

冷たい北風とともにあの船がやってくる。

 

2015年にはじまった梅田哲也さんhyslomさんたちによる

水の都大阪を舞台としたクルーズパフォーマンス。

その活動をとりまとめた冊子『入船(ニューふね)』の

出版を記念したクルーズがあり、

長女とともに乗船してきました。

 

↓前回3月のクルーズの記事はこちらから

↓クルーズの写真『沈殿する水都』
まずはこの『入船』。

これまでのパフォーマンスクルーズの記録はもちろん、

参加したアーティスト陣の寄稿の豪華さや、

水都としての大阪の歴史まで触れていて、とても貴重な資料なのですが

何よりこの装丁!

河原に落ちているビニ本感を出すために、

わざわざ一度、木津川の水を含ませてのちに、

ざらしで乾かすという手の込み様。

これをどうしてもゲットしたくて、

どうにかぎりぎり調整して予定を間に合わせたのでした。

 

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さて、限られた時間の中で、唯一乗船可能だったのが第2便で、

天満橋の八軒家浜から、東横堀川~道頓堀とつなぎ、

京セラドーム前の大正船着き場までの航路。

ここは一般の観光船も頻繁に行き来する王道コースで、

初めての長女にとってもちょうどよい入門編。

探検好きの娘には普段は目にすることのできない

高速道路の下を覗いたり 、

いくつもの橋をすれすれでくぐっていくこのコースが

一番興味が湧くだろう。

 

15時前に集合場所に到着すると、

怪しげなものを満載したyuzu号がぷかりぷかりと待ちわびている。

スタッフの皆さんはつかの間の上陸の合間に、

もぐもぐタイム。 

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時間となり、受付を済ませていざ乗船。

船内中央には怪しげな土壺があり、淀川で組んだ水を炊いている。

(スタッフの皆さんはそれでコーヒーを飲んでおりました)

 また炭火も炊いていて、これで大阪湾で釣った太刀魚を塩焼きにするそうです。

 

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中之島公会堂のところでゆっくりと旋回をし、

少し戻って北浜から東横堀川へと入っていきます。

東横堀川への入り口のところは、

葭屋橋・今橋・高麗橋と連続して低い天井をくぐっていくので

いつも冒険心がくすぐられます。

ほどなくして、1つ目の水門・東横堀水門に当たります。

東横堀川道頓堀川は潮の満ち引きによって水位が変動するため

安定した治水を施すために、2つの川の両端には水門が設けられているのです。

水門のあちら側とこちら側で、水面の高さが異なるため、

船は一旦水門の中に侵入し、

そこでその先の河川の水位と同じになるまで水を注入or流出させてのち、

反対側のゲートを開放して、進行するという仕組みになっています。

 

この水門内で船が待機していると、

ラッパの練習音がそこかしこから鳴り響きます。

まるで長い航海から帰還した船を歓迎するかのような

甲高い祝福の音のようであります。

そうしてそれに呼応して、yuzu号も汽笛をポンポン。

川と陸のアンサンブル。

 

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いよいよ反対側のゲートが開き、東横堀を南下していきます。

大阪市内でもっとも古い本町橋の立派なアーチをくぐっていくと、

川は微妙なS字を描いて、深緑のとぐろを巻いている。

ここは昔から航路の難所で、船がよく沈没したり座礁しやすい場所なんだとか。

それで、ここらでは河童がいるという言い伝えがあったりする。

それにしても堀川という事は人工的に掘り出した河川で、

大抵はストレートに通しているのに、

ここだけ妙に迂回しているのはなぜなのか?

 

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秘密の要塞へと続く地下通路のような、

高速道路の重厚な支柱連なる水の回廊をひた進んでいくと、

背後から黙々と噴煙を上げながら、海賊船のごときyuzu号が追い上げてくる。

先端に野生のカイトのように掲げられた樹木は、

今年の豪雨の際に上流から淀川に流れ込んできた流木だそうで、

それをこまめに切り分けながら、煙突に薪をくべる。

そしてその煙突の中には、金銀財宝のお宝ならぬ、焼き芋が忍ばせてある。

hyslom隊長率いる血気盛んなyuzu号隊は、そのままどんどんと加速をして、

のたうつ緑を切り裂いて、我々の船舶の前に躍り出る。

我々はもはや拿捕された漂流者の如く、

裸の現地人のごとき彼らの後塵を拝す。

 

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つかの間の抗争劇は、薄暗い東横堀を直角に折れ、

道頓堀川に差し掛かって結する。

前方には色とりどりの消費にまみれた

派手な看板や構造物で溢れかえる世界が広がり、

裏の住人であった我々の未開の血をまざまざと思い知らせる。

yuzu号は動力を止め、欄干に足をかけたかと思うと、

この真冬の最中に、上半身裸の男たちが一斉に川に沿って走り出し、

圧倒的な文明を前に、ささやかな貢物を施さんとばかりに、

アノ焼き芋を配って回る。

虚を突かれた人たちは、驚きというよりは、

半分以上ゾンビ映画を目撃したかのような軽い恐怖でもって迎える。

船に取り残された我々は、水に囲まれた安全なゾーンから、

その捨て身のゲリラ戦を固唾をのんで見守る。

そのささやかな抵抗は無残にも散り去って、湊町で終戦を迎える。

何も知らない双子の幼子が、

優しくこちらへと手を振って我々を見送ってくれた。

 

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先ほどの慌ただしさが嘘のように、

静止画のような川の風景が辺りを占めてゆく。

1つ2つと薄暗い橋の下を船は音もなく進み、

時折鳥たちが物悲しく川面を飛び立つ。

汐見橋の欄干から、再びあのファンファーレがこだまする。

物語はもうほとんど幕を下ろそうとしていた。

 

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そうして我々はつかの間の冒険を繰り広げたのち、最果ての地へとたどり着いた。

我々はこの門をくぐって、再び未開の地へと舞い戻るのだ。

脇ではあの大捕り物劇が繰り広げられた”アフリカ”が

今日は無言のまま立ちすくんでいる。

 

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 そうしておもむろに扉が開かれたかと思うと、

まるで極楽浄土が目の前で開かれたかの如く、

眩い光線が四散する。

一日のうちでわずかこの時だけしか お目にかかることのできない瞬間でした。

 

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水門をくぐり、河川の十字路を大きく右に切ると、

終点の大正船着き場。つかの間のクルーズはこれにて終演。

ナイトクルーズには、まるで一級サスペンスのような緊迫した面白さがあるが

昼便には昼便のドラマを感じ取ることができた。

どちらもが、かつて水の都と呼ばれたこの大阪の街のまぎれもない表情なのだと。

また次の機会にもぜひ、この物語の続きを。

 

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