記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

自由学園明日館 by フランク・ロイド・ライト

11月の東京遠征のテーマ、

『名建築で昼食を』で取り上げられた名建築を巡る。

お次は、西池袋にある自由学園明日館です。

ここは去年夏に訪れた、

兵庫・芦屋にある中邑邸(ヨドコウ迎賓館)と同じく、

世紀の建築家、フランク・ロイド・ライトが設計した建物です。

中邑邸については、ご興味あれば下記より飛んでください。

 

arkibito.hatenablog.com

 

自由学園は、羽仁吉一・もと子夫妻により、

大正10年(1921年)に女学校として設立された学校で、

生活と結びついた教育をモットーとし、

大正デモクラシー期における自由教育運動の象徴でもありました。

 

羽仁夫妻が、友人の建築家で、

ライトの弟子でもある遠藤新を介して、

当時帝国ホテルの設計のために来日していた

ライトに校舎の設計を依頼。

多忙を極める中でも、夫妻の教育理念に感銘を受けたライトは

その依頼を快諾したそうです。

大正10年に中央棟、西教室棟が竣工、

大正14年には東教室棟が完成、昭和2年に講堂が完成し、

同年には初等部も設立されました。

 

自由学園は、生徒数の増加によって敷地が手狭になったため、

昭和9年には東京都久留米市へ移転しますが、

この「明日館」は卒業生の諸活動の拠点として残ります。

幸いにも、関東大震災や戦火を免れて今に至ります。

 

平成9年(1997年)には国の重要文化財に指定されますが、

建物は使ってこそ維持保存が可能であるとの考えで、

明日館は使いながら文化財価値を保存する

「動態保存」のモデルとして運営されています。

 

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明日館は一般の人でも見学可能ですが、

ちょうど訪れた日は、

ブライダルフェアが行われていたために、

講堂は見学できませんでした。

(その代わりに入場料は無料でした)

 

高層ビルが立ち並ぶ、大都会・池袋の街並みに、

まるでそこだけ時計が止まったかのような、

広々とした芝生と青空の広がる一角。

軒高を低く抑え、水平線を意識した立面は、

ライト建築の特徴の一つでもある

プレイリーハウス(草原様式)で

中央棟を中心にシンメトリーに教室棟が設置されています。

もうこのファサードだけでも、

当時の女学校の清廉さと規律、

そして自由にあふれた校風が見事に表現されています。

 

東教室棟の南端は芝生に張り出すような形で、

そこが受付のゲートになっており、敷地に入ります。

建物の土台部分にあたる敷石は、

中邑邸でも特徴的だった重厚感あふれる大谷石造り。

 

これだけ贅沢な石材をふんだんに使用しているが、

最小の予算の中でこれだけのものを用意できたのは、

実は、同時進行で行われていた

帝国ホテルの建築資材の余りを

こっそりこちらに転用したとかしないとか。

 

大谷氏の重厚な土台から、均等に居並ぶ列柱が、

広々とした景観を

周囲から見事に切り取る役割を果たしていると同時に、

学校という規律ある空間を引き締めている。

 

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ホールと、東教室棟の間にある入り口から室内へ。

この入り口も、ライト建築の特徴の通り、

その先の空間の広がりを見せる演出として、

極めて小さな間口になっています。

 

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入り口に入ると、

大谷石が敷き詰められた廊下が段差なく続いていて、

内と外を緩やかに繋いでいき、

自然・大地と地続きで根差していることが表されています。

廊下は、その先の小上がりから、

深い木張りの廊下となり、

雰囲気が一気に切り替わります。

空間の連続性を断ち切らずに、

わずかな高低差と、意匠の変化で

空間を絶妙に仕切る名匠のなせる業です。

 

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中邑邸でもそうでしたが、ライト建築では、

窓や天窓が見せる幾何学的な顔がとても素晴らしい。

これらが、1日の陽の加減や四季の移ろいによる

光の加減によって、微妙に顔色を変えていくさまなどは、

きっと美しいに違いありません。

 

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教室はそれぞれ大きさや形状は異なるが、

総じて天井は低めで、こぢんまりとした印象。

各教室は、壁、天井ともに漆喰塗り仕上げだが、

それだと単調なでぼんやりとした印象になるのを防ぐために、

見切り桟が多用され、空間を引き締めている。

 

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そして中央棟ホールへ。

2階吹き抜けの空間になっていて、

南側に大きく窓が取られて、差し込む木漏れ日が、

室内を鮮やかに照らし出し、

さながら小さな教会のような祝祭感にあふれます。

女学校当時は毎朝の礼拝がなされていた場所です。

背後には大谷石造りの重厚な暖炉が備え付けられています。

2階部分のせり出したギャラリーは、

主張しすぎることなく実につましく控えめ。

 

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このホールの西側壁面には縦2.5m、横5.0mの

大きなフレスコ画が掲げられています。

これは学園創立10周年の記念に

当時の女生徒によって描かれたものです。

しかし、太平洋戦争中に、不適切な画であるということで、

壁画の上から漆喰で塗りつぶされていました。

その後平成の大改修時に、その存在が発見されました。

皮肉にも、長い歴史の中で覆い隠されていたからこそ、

現代に蘇ることができたのです。

 

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中央棟ホールの背後にあるのが食堂。

この中央棟食堂は、

内廊下から半階分だけ上がったところにあり、

またギャラリーからは半階分下がった、

中二階的な高さに設けられ、

その高低差によって特別な空間としての存在感を高めています。

 

生活と結びついた教育を理念とする自由学園にとって、

この食堂はとりわけ重要な意味を持つ場所で、

当番の生徒たちが実習で作った料理を、

先生や生徒が全員一堂に会して会食をする場でした。

しかしそれは和気あいあいとにぎやかな場所としてではなく、

むしろ厳格かつ端正な儀式の場で、

食事の作法を実践的に習得する機会だったそう。

 

この空間を俯瞰すると、高低差や飾りのついた窓、

照明器具(ライト自身が一晩でデザインを完成させた当時のまま)、

至る所に張り巡らされた桟によって、

さまざまな幾何学模様が自由自在に空間を印象付けています。

見る角度によって、色々な顔が現れて実に面白い。

 

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この食堂の東・西・北部分は

建設当初は半屋外のテラスでしたが、

その後、生徒の数が増えて、

食堂に入りきらなくなってしまったために、

遠藤新がテラス部分を新たに小食堂として増築されたもの。

 

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食堂から数段の小上がりを登り、

小さな入り口を抜けると、

先ほどのホールの2階部分のギャラリーへ。

導線的に一番奥まった場所に位置するだけあって、

他の場所と比べても特別感が溢れます。

 

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一通り室内を拝見し、外へ。

日進月歩で変化する都会のど真ん中で、

本当に清々しい空間が

今もなおこうして残っているだけでなく、

きちんと目的に応じて生きた空間として

使われているということに感銘を受けました。

 

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そのあと、施設内にあるショップにてお買い物。

ほしいものが次々見つかり、あれもこれもと、

お店の方にクスリと笑われてしまいました笑

 

お目当てだったのは、自由学園のレシピ。

当時の作り方を卒業生の皆さんが復刻したレシピが満載で、

これから料理するのが楽しみ。

それから自由学園食事研究グループのお手製のクッキー。

もう缶を開けただけでおいしさが伝わってきますね。

 

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ということで、

つかの間の名建築めぐりでした。