記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

中銀カプセルタワービル見学ツアー

みなさんは中銀カプセルタワービルをご存じだろうか。

メタボリズムミニマリズム全盛の1970年代に、

日本を代表する建築家・黒川紀章氏によって設計され、

世界で初めて実用化されたカプセル型集合住宅です。

 

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工業用のコンテナカプセルを組み合わせたタワービルは、

それらを20~25年ほどで、部分的に交換・更新していくことで、

永続的な存続を図るという設計理念に基づいて建てられていながら、

現実的にはパーツ交換が極めて困難なために、実施されず、

深刻な老朽化の問題に直面していることや

また時代に合わせた設備(エアコンやパソコン機器)の追加も

また難しく使用用途が限定されるなどといった問題で

常に存続が議論となってきました。

一方で、その近未来的で独特な外観や、

斬新なコンセプト・デザイン性が、現代に再評価され、

重要な建築物としての保存や活用を模索しているところです。

 

建て替えか存続かと揺れるなか、

同ビルの愛好家や住民を中心とした

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」が立ち上がり、

クラウドファウンディングによる保存活動や、

PR活動として内部見学ツアー、

リノベーションを施したカプセルでのマンスリー宿泊など

色々な仕掛けが行われています。

 

今回は、毎月指定日に行われている

見学ツアーに参加してきました。

(1回40~50分くらいのツアーです)

 

↓↓↓気になる方はぜひこちらへ

 

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ツアーは1F玄関前で集合。

この日この会の参加者は4人でした。

(それでもスペース的にはいっぱいいっぱい)

プロジェクト代表の前田さんからまずはレクチャーを受けます。

当ビルの歴史やコンセプトなどの解説、

プロジェクトの内容、

それからツアーに当たっての注意点などです。

未だに現役で稼働しているビルで、

住人や利用者がいますのでその辺の配慮やエチケットは厳守です。

 

前田さん自身も、このビルに魅了されたお一人で、

いくつかのカプセルを所有するオーナーさんなのだそう。

同じようにこの貴重な建築物を愛する人たちが

カプセルを所有していて、

当時のままの意匠で保存している方や、

色々と手を加えて、

事務所や週末のセーフポイントとして利用したりしているそう。

逆にもはや所有者がわからず、

そのまま廃墟と化してしまっているものもあるようで

このカプセル1つ1つにドラマがあるようです。

 

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ツアーでは、まずエレベーターで上階へ向かいます。

このエレベーターも、建設同時に設置されたものを

騙し騙し使用し続けているそうなのですが、

ついに製造元から保守が打ち切られたそうで、

頭を悩ませているそうです。

5人乗ればギリギリのエレベーターは、

到着時の衝撃もなかなか大きくて、チョットビビります。

 

さて、このビルは実はツインタワーで、

11F層と13層の2本のビルが建っており、

そこに、大きさ10 m2 (4000mm × 2500 mm) のコンテナが、

らせん状にフックで引っかけられて、

ブドウの房のようにして連なっている構造で、

コンテナ1つ1つが独立しています。

なので、台風の日などは結構揺れるのだそう@@@

この屋上から断面や下を覗いて構造を確認すると、

コンテナとコンテナの間に隙間があり、

本当にそれぞれが宙に浮いているのがわかります。

 

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コンテナとコンテナの隙間はわずかにこれだけしかなく、

そのために、コンテナを交換する作業だったり、

配管をやりくりすることが現実的に不可能なため、

色々な不具合が出たり、施設の更新ができないのだそう。

例えば、外観を見ると、

建物の外側にたくさんのツタのようなものが

あちらこちらから垂れ下がっているのがわかります。

これはコンテナの外側に、

エアコンの室外機を置くことができないために、

地上階に設置した室外機と部屋を繋ぐためのコンダクターなのだとか。

その事例一つとってもそうですが、

水回りの問題(水漏れとか)、通信設備の問題等々、

現実的に居住するにあたっては、なかなか厄介な物件です。

まあ、クラシックなヴィンテージカーと同じように、

そういう手のかかるところもまた、

愛好家にとっては愛すべき点なのかもしれません。

 

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屋上からは、エレベーターを取り巻くように

らせん状に張り巡らせられた階段を下りていきます。

当時はもっときれいに塗られていた廊下も

年月によって剥げています。

各部屋は玄関を設けるスペースもないほど狭小スペースなので

各自で荷物を置いたり、

靴を並べたりしているところもありました。

 

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そして、現在でも、竣工当時にそのまま保存されている

公開ルームへ到着。

早速中へ入っています。

はい、以上です。

わずか4畳ほど丸窓の部屋が、コンテナの全容です。

 

シングルベッドを1つ窓際に置けば、

もうほとんど足の踏み場もありません。

本当にミニマリズムの極致というか、

必要最小限度の設えです。

でも、これはこれで、例えば子供の頃に、

押し入れの奥や物置の裏に、

小さな小さな秘密基地をこさえて、

そこで自分だけの世界を広げていたようなロマンだったり、

まるで近未来の宇宙船カプセルに乗り込んだような

SF的なワクワクを感じてしまうというのは、よくわかります。

 

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部屋の設えについて、前田さんが1つ1つレクチャーしてくれます。

まずは何と言っても目を引く、大きな丸窓。

これもこのビルのために作られた特注で、

内側に開けることができるのですが、

もう開けてしまえば部屋の自由がほぼ失われます(笑)。

しかも二重窓になっていて、

外側の窓は固定で開けることができません…。

こちらは西に面しているので西日がすごいのですが、

中央の丸には専用のブラインドがつけられていて、

扇子のようにぐるっと閉じることができるそうですが、

無用なので多くの住人が外していたそうです。(笑)

 

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そして壁側には色々な器具が

わずかな収納棚の中に備え付けられています。

電話、テレビ、ラジオ、そしてSONY製のオープンリールデッキ。

当時としては、最新のアーバンライフを満喫するあれこれが

満載された夢のハコ部屋。

今となっては、レトロフューチャーな貴重な宝の部屋ということでしょうか。

ちなみにテレビもラジオも、回線を繋いだりすれば、

現役で使用可能らしいです。

手前の棚は開閉が可能で、ここを簡単な書斎代わりにして、

書き物をしたり仕事をしたりできるようになっています。

 

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元々はきちんとした住居施設としてではなく、

ビジネスマンの週末のセカンドハウス・オフィス的な

位置づけなので、

必要最低限の住居用具だけが備えられいるだけ、

キッチンや洗濯機置き場もありません。

その代わりに、当時は洗濯等の用事を申し付けられる

ビル専用のコンシェルジュのサービスまであったそうです。

そのため、近隣の銀座で働くママや芸者さん、

あるいは出版やメディア関連の人達がよく出入りしていたそうです。

 

さて、翻って、反対側を見ると、小さな扉があり、

そこを開けると水回りです。

曲線で空間を切っているのは、

そうすることで居住空間をできるだけ確保し、

圧迫感を軽減するための工夫です。

中を覗くと、シャワーやトイレ、洗面台も、

うまく曲線を駆使してデザインされています。

 

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これがほぼほぼ竣工当時の部屋のデザインそのままだそうですが、

現在では、オフィス用にシャワールームを取っ払ったり、

和風なデザインにリノベーションしたり、

オーナーさんによって色々とバリエーション豊かな部屋があるようです。

 

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ということで、あっという間にツアーは終了。

最後には、オーナーさん同士が、個別に所持していた

OPEN当時のビルのパンフレットの断片をかき集めて、

それを一冊に復元したパンフレットを購入することが可能です。

これはこれで大変貴重な資料です。

 

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ということで、短いながらもとても興味深く楽しいツアーでした。

建築系に興味のある人はぜひ参加してみてください。