クラフトマン精神の極意 ヤイリギター 工場見学
誕生日プレゼントとして、十数年ぶりにギターを新調したいと思い、
先月からいろいろ調べたり、楽器屋に通っていたりしていたのだが、
なかなか限られた予算内でしっくりくるものが見つけられず。
そんななかで、80年前からメイド・イン・ジャパンを貫き、
30人ほどの職人により1日20本ずつの少量生産で、
こだわりの詰まったハイクオリティのギターを生産しているという
ヤイリギターの存在を知る。
多くのミュージシャンにも愛されていて、
特にBIGINさんとは一緒に
日本人にフィットした製品を開発したりしているようです。
サイトを見ていると毎週土曜日に工場見学を受け付けているようで、
ダメ元で直前にアポを入れたら予約できました。
ちょうど誕生日直前というタイミングでまさに巡り会わせ。
ということで、現地まで飛んで行ってしまいました。
10時の回の見学ツアーに間に合うように
岐阜は可児の工場まで自転車で、10分前には到着。
たくさんの試供品が飾られた2階のショールームには、
ほかの参加者が集まっていて時間通りにスタート。
↓現代の名工にも認定された先代社長、矢入さん。残念ながら2年前に急逝
まずは敷地の一番奥の倉庫へ。
ここには様々な種類の原料となる木材が保管されています。
世界的にも木材は不足していて、良質の木材は価格が高騰。
10年20年先にはどんどん希少度は高くなり
価格が上がっていくことを見越して、
今のうちから世界各地から木材を仕入れて確保しているとのこと。
仕入れた木材はすぐにギター造りに使えるというわけでもなく、
最低でも3〜5年自然乾燥させなければならないらしく、
長いものでは20年以上寝かせると言います。
酒造りにも共通するように、
”時”というものも重要な工程なのだなと感じました。
倉庫の奥は、写真用の食堂兼ステージのホールがあり、
有名なアーティストさんが来られた時や、
イベント時にはここで演奏が行われるそうです。
このホールがまた本当に居心地のいい空間で、
アットホーム、ハンドメイドな社風がにじみ出ていました。
また木材を自然乾燥させるのに適した風通しのよい高台に工場があるので
大きな窓からは美濃加茂市が一望できるロケーションも素晴らしかった。
ホールでは木材についてのレクチャーを受けます。
マホガニー、メープル、ローズウッド、エボニィ、コアなど
たくさん種類があり、
硬さや加工のしやすさ、耐久性・変形性、
音の反射・吸収具合が全然違ってきます。
もちろん、ハードなアタックに適したもの、
繊細に爪弾くのに適したものがあり、
各パーツで木材を組み合わせると
様々な音色の違いが生まれることになります。
このあたりは、まさに、長年木と会話をしてきた職人でなければ
狙った音の出せるギターは造れません。
一つとして同じ節や年輪のものがない中で、
仕入れた木をどの部位で使うのが適しているのか、
木の持つ個性を見極めていくところからギター造りが始まっていくのです。
ホールを後にし、いよいよ核心部である工場の方へ移動します。
2Fの作業場に上がると、そこは通常のルーティン作業の場ではなく、
特別なギターを扱うスペース。
ギター造りの神様と称される、
超級のクラフトマンである小池さんと道前さんがいらっしゃって、
オーダーメイドのギターに取り掛かっているところでした。
ちょうど、東海エリアで人気番組を持っている
ドンドコドンのぐっさんがその番組でオーダーしたという
ギターを見せていただきました。
ネックのポジションマークに、GOOD*SUN(ぐっさん)と入ってますね。
同じフロアには全国各地から
リペア注文で届けられたギターが並んでいて修理の順番を待っていました。
ヤイリギターでは生涯修理サポートがついているので
いつでもメンテナンスやリペアに応じてくれます。
ギターは消耗品ではなく、バイオリンなどがそうであるように、
長い時間をかけて演奏されることで育っていくものという考え方があり、
単に製品を作って売ったらあとはおしまいではなく、
末永く自分たちの製品や、
その製品を使う人たちと関わりたいという思いがあるからです。
スバラシイ!
お隣の部屋は、合板の作成と
バック板のブレイシングを取り付ける作業場でした。
「単板」はそのまま1枚板で造られた木板で、
柔軟に振動するため音色は合板に比べて優れますが、
当然1枚板で材料を取るとすると価格がグーンと上がります。
また1枚板だとどうしても環境によって
変形したり割れやすかったり、管理が難しくなります。
「合板」は薄い板を3枚張り合わせることで、
コストを抑えるとともに、
強度を上げることで使いまわしの良さを実現するのです。
ブレイシングとはバック板に取り付けられた骨組みのこと。
薄い木の板は、音の振動や、弦の張りによって
常に高いテンションがかかっているので、
変形したり割れてしまうのを防ぐために
こうやって裏側に補強のための力木が組まれています。
この骨組み自体も音を伝える重要なパーツで、
組み方や、力木の太さ、材質、精度で
音の響き方が全く変わってしまうそうです。
現在アコースティックギターで最も一般的に組まれているのが
バッテンに木を組むXブレイシングだそうです。
ここでは、この力木を振動を抑えるゴムの入ったボンドなどではなく、
天然由来のニカワを煮詰めた接着剤で止めていて、
ニカワは天候などで大きく性質を変えるため管理が大変難しいのだそう。
また、貼り付けた力木をミリ単位で削っていくことで、
音の鳴りを極限まで追求していて、
実際に彫刻刀で削っている作業を目の当たりにしましたが、
ちょっとでも手元が狂って削りすぎてしまえばおしまいという
なかなかプレッシャーのかかる作業を、黙々とこなしておられて、
これぞ職人という場面でした。
↓バック板のブレイシング。わずかな削りの違いで音が変わってしまう
1Fへ降りると広い作業場にたくさんの機械が並んでいます。
サイド部分はしなやかな曲線を出すために、
材料の木をまず湯煎して柔らかくして
それをプレスして曲げていくという作業でした。
ネック部分は持ち手に合わせて、いくつかのパターンがあって、
特にヤイリでは日本人の体形にフィットした形状を追及されていて、
色々持たせてもらいましたが、本当によく設計されています。
ネックとボディーを繋ぐ部分は、
釘など、音の振動を妨げたり、影響を与えるような部品を一切使わず、
木と木を継ぎ目でうまくはめ込んでいるのですが、
そこの調整も手作業。
ほんのわずかでも削りすぎてしまって、
ネックがぐらぐらになれば台無しになってしまう非常にデリケートな作業。
1本のギターが完成するのに、
色々な工程を経て約3か月擁するそうなのですが、
その工程と工程の間では、黄を落ち着かせるために何度も寝かせます。
その間、倉庫では徹底した温度・湿度管理がなされるとともに、
大音量で音楽を聴かせて、ボディに音の振動を覚えさせるのだとか。
これを発案した先代社長さんは
この時間を「天使が宿る時間」と呼んで大切にしてきたそうです。
工場の一角には、ゆるキャラ(?)のヤイリくんが鎮座し、
職人さんたちを見守っておりました。(笑)
さて、徐々に、ギターの形になってきましたね。
ここからもヤイリさんのこだわりの製法はまだまだ続きます。
音の響きや、使いやすいフィット感といった、
楽器としてプレイヤーのこだわりを徹底的に追及するのはもちろんのこと、
工芸品としての見た目の美しさや洗練さもまた追及されていて
細かいパーツや塗装まですべて吟味された素材を使って
すべて手作業。
見た目的にもとても美しく愛らしいフォルムに一目ぼれをしてしまいますね。
ということで、駆け足ながら1時間程度で工場見学ツアーは終了。
もうずっと、スゲースゲーと感嘆の声を上げるばかりで、
色々な工場見学やモノ作りの場に参加をしていますが、
これほどワクワク、ドキドキが止まらないものはありませんでした。
なにより卓越した技術と、
それに裏打ちされたクラフトマン精神に圧倒されました。
職人のみなさんが、自社製品に誇りを感じ、
モノを作り出しているという気概がにじみ出ていて
本当に素晴らしい現場だなあと感じました。
ツアー終了後は、社員さんによる演奏会。
やはり、なんといってもギターは楽器ですから、
その音色をまずは聴いてもらわないといけないということだそうです。
「戦場のメリークリスマス」をはじめ数曲披露していただきましたが、
スバラシイ音の響き!
そしてめちゃくちゃギターがウマイ!かっちょええ!
見学ツアーと演奏会が終了すると工場見学は終了。
そこからはショールームで気になったギターで好きなだけ試奏です!
やっぱり実際に弾いてみないとわかりませんもんね♪
ということで、片っ端から弾かせていただきます。
んんん〜なんという音色♪
素晴らしすぎます。
ヤイリさんでは「一期一会」というオリジナルのギターを
BIGINさんと制作していて、せっかくなのでこちらも弾かせてもらいます。
ウクレレより一回り大きいくらいの
ちょっと変わったフォルムの4弦ギターですが、
これ、なんと世界一簡単な夢の新楽器なのです。
というのはこれ、複雑なコードを一切覚えなくても、
フレットを人差し指で全抑えするだけで、
あらゆる曲が弾けちゃうという驚きの設計なのです。
フレットには、「一」「二」「三」と漢数字が振ってあって、
楽譜に書かれた番号の高さをフレットで抑えていくことで曲が弾けるのです。
なので、子供や全くの初心者でもジャララ〜ンとするだけ!
これはすごい!
それから結局お昼ご飯も食べずに、試奏しつづけて、
気づけばすでに13:30を回ってる!
色々悩んだ末に、アウトレットで30%も安くなっているLO-K-OVAに決める。
奥さんにさっそく電話してOKをもらい、お店の人にオーダー。
ボディに一部傷があるようなのだけど、すでにリペア済みで、
音質には全く影響しないとのこと。
もともと雑な人間なので、そういう傷とかあまり気にしない人なので
格安なのがうれしすぎる。
何といっても見た目で惚れました。
おニューだけど、すでにヴィンテージな風貌の木の色合いがお気に入りです。
色々試し弾きした中でも、とても取り回しがよく、すぐになじみました。
もうこれしかないです。
1Fのロビーで、購入の手続きをしていると、
現社長さんが声をかけてきて、
自分のフィブラ君のことがとても気になるらしく色々とお話し。
自転車もまた鉄・カーボンの世界ですが、
立派なクラフトなので、職人としてはとても気になるのだと思います。
昔、大阪・豊中に住んでいらしたらしく、
大阪から来ましたというと大変懐かしがっておられました。
翌日がちょうど誕生日だというと色々オマケもしていただいちゃいました。
他にもいろいろとお話しさせていただき、
またぜひ遊びに来たいと思います。
ということで、なんだかトントン拍子で、
数十年ぶりのニューギターをゲットできました。
何より、そのギターが生まれた場所で直接購入できたというのは、
とても印象に残る思い出になり、すでにかなり愛着が湧いています。
じゃんじゃん鳴らすど〜!